樋口 |
はじめにうかがいますが、王さんは何年生まれですか。
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王 |
1986年、23歳です。 |
樋口 |
流暢に日本語が話せますが、いつから日本語を勉強していますか。 |
王 |
ビミョーですね。
中1から日本のアニメを見ています。
音は日本語、字幕は中国語で。
でも字幕が繁体字だったのであまりよくわかりませんでした。 |
樋口 |
繁体字って読めないものなんですか。 |
王 |
はい、学校で習いませんし…。普通の中学生は読めません。
チンプンカンプンです。
アニメのなかの日本語は、短い言葉ならわかりました。
半分はわかって、半分は当てずっぽう。
そして2、3回見ると何となく言葉が身について、その日本語の音を聞いて意味がわかるようになりました。 |
樋口 |
何のアニメだったのですか。 |
王 |
『るろうに剣心』です。
幕末・明治維新の話なので、日本の文化・歴史に情味を持ちました。
新撰組・戦国時代・江戸幕府・武士道…。現代が舞台だったら好きにならなかったと思います。
アニメの影響で剣道をやりたかったのですが、中3だったので危ないからと両親に反対されました。
それにそのときはまだ上海に剣道の道場はなかったです。だから空手を習いました。 |
樋口 |
日本人の私からすると、日本文化といえば茶道や華道というイメージがあります。 |
王 |
そういうものにも興味はありますが、一度も見学するような機会がなかったのです。 |
樋口 |
日本語自体にも興味をもったのですか。どの部分ですか。 |
王 |
はい。響きに。特に女性の日本語が優しく聞こえますし、その女性の全体も優しく感じられます。
中国語と日本語では発声が違いますよね。 |
樋口 |
王さんご自身はいかがですか。
日本語を話すときと中国語を話すときで違いますか。 |
王 |
違うと思います。中国語を話すときは、乱暴?男っぽい?(笑)
私の性格はもともと男の子みたいなので。
日本語を話すときの私は、中国語を話すときよりも女らしいと思います。
私の上海の友達もそうです。 |
樋口 |
乱暴?全然そう見えないけど(笑)。
専攻を日本語に決めたとき、両親に反対されましたか。 |
王 |
両親には何も反対されませんでした。自分で決めました。
両親は放任主義なので私の好きにさせました。
どうしても日本語を勉強したいと強い決心があって、
第一志望は全て日本語にしました。 |
樋口 |
日本語を声に出したのはいつですか。 |
王 |
大学に入ってからです。最初は嫌でした。まちがったら恥ずかしいし。 |
樋口 |
それまでは日本語を聞くだけだったのですね。 |
王 |
はい、ちょっと話したのは、あいさつぐらいです。
大学1年生のとき、五十音図を習って、
耳で聞いて(記憶に)蓄積していた音と文字が一致しました!
ひらがなを覚えると、
学校で売っている日本の漫画を見てもわかるようになりました!
それは大学に入ってすぐのときのことです。
この体験はとても印象的でした。 |
樋口 |
日本語を流暢に話せるようになったのはいつ頃からですか。 |
王 |
大学3年生から日本人に中国語の家庭教師をして、
大学4年生の後半は中国語教室で半年働きました。
日本人と雑談しながら、すごく進歩したと感じました。
その前は週に1回1時間半の会話の授業だけでしたから。 |
樋口 |
それまではどんなふうに勉強していましたか。 |
王 |
MP3に日本語を入れて聞いていました。日本語の会話が上手な友人もそうです。 |
樋口 |
アニメを見ながら音を覚えて、日本語を専攻してからも音を勉強してきたのですね。 |
王 |
そうですね。私は耳がいいとよく言われます。
実は、音楽はだめですけど、リズム感はいいです。
逆に、音声に対して文字を見るほうが苦手です。
大学の寮に単語を地道に覚えたり本をよく読んだりする人がいました。
部屋のなかで日本語のラジオ放送を流そうとしたとき、その人はものすごく反対しました。
おそらく聞きなれない音を聞くのはストレスなんですね。
やはり、人によって適当な方法が違います。
私は語彙の分野が弱いと思います。 |
樋口 |
大学で日本語文法を習ったと思いますが、それは役に立ちましたか。 |
王 |
文法ではなく、例文を記憶しました。
直接、例文を記憶してそのまま中国語に置き換えます。
そうすると他の人よりも口からはやく日本語が出ます。
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樋口 |
日本に来たときからこんなに流暢に話せたのですか。 |
王 |
どうでしょうね。自分ではよくわかりません。
下手になったかもしれませんね(笑)。
若者言葉とか流行ことばは覚えますが、
日本にいると日常的な話しかしないので決まったことしか言わなくなります。
かえって正しい日本語や難しい言葉は聞いてわかるけど話せなくなってしまったみたいです。 |
樋口 |
自分に厳しいですね(笑)。ありがとうございました。 |
王 |
こちらこそ、ありがとうございました。 |